その試合は、仕事だったから見に行けなかった
正直なところ仕事なんか放ってしまって
全校応援にしてほしかった
結局至るところで授業を取り止めて
大型スクリーンで応援するスタイルに切り替えはじめた
シーンとしている事務室で
野球の行方を気にしているのは私だけ
こっそり中継動画を再生しながら仕事をした
離されては追い付き
また、離されてはまた、追い付き
食らいつきながらも崩れてしまい
敗退した
これに勝ったら次の試合は応援に行けるけん
あの子たちにはそう言っていた
絶対勝つ!まだ引退しいへんから
野球の夏は終わった
夕方近く、大型バスが学校に戻ってくる
次々と降り立つ彼らの顔に
いつも浮かんでいる笑顔はなかった
事務室から静かに見守った
1時間ほど経って
事務室のガラスを叩く音がした
頭をあげると
土で汚れたユニフォーム姿のあの子たちが立っていた
急いで廊下に出る
おかえり、ずっとみとったよ、ありがとう
と言うと
みんなの目からボロボロ涙が出てきた
みんなが泣くから私は泣けない
坊主頭を順番に撫でた
よく頑張った、よく打った、よく守った
スタンドは、よく声出した
甲子園連れてくゆうたのに
icoちゃんごめん
応援してくれたのにごめん
謝らんでいいよ、立派だったよ
みんなの応援がすごくて
ブラバンもすごくて
自分らがこんなに応援してもらってるって
はじめて今日、わかった
うんうん、学校に残っとる子らも
みんな行きたいって言っとったよ
私も行きたかったよ
自分の中では後悔ないけど
チームとしては、まだやれたって思いがある
もうみんなで練習できひんのやなって思ったら
寂しい悔しい
ネーム入りの練習着icoにあげる
え、くれるん?寝間着にして大事にしよ
やっと笑ってくれた
涙も止めんけど、やっぱりあんたらは
笑顔がいいよ、と言った
これから、高校生の夏が来るよ、と言った
うん
風呂入ってそろそろ飯行く、ありがとうと言って去っていった
帰り道
3年生全員にColaを買って
ひとりひとりの名前を書いた
何十人に一晩かけて手紙を書いたのは生まれてはじめてだった
翌日、Colaと手紙を手渡した
何でこんなにしてくれるん
こんなしてくれる人他におらへん
ありがとう
みんな笑顔に戻ってた
してあげたい、なんて一欠片も思ってない
ただ心と手が動くだけ
そう言った
2年半、お疲れさま
ありがとう