ラ ム レ ー ズ ン

前 だ け 向 い て ろ 

これまで これから

 

私は2年半、高校で働いた

生徒たちを心から愛して信じて

今だって愛し続けている

 

シンプルに言えばそれがこの学校から

疎まれる原因となった

これまで、そのような立ち位置に立つ職員は居なかったからという理由で

私の存在は目の上のたんこぶとなった

というか、消えてほしい存在No.1となった

男子生徒と付き合っているという噂を

一部の女子生徒と一緒になって流したのは

私の親ほどの年齢の教員だった

素行が悪いと言われている(私はそうとは思わない、学校側の愛があまりにも足りないからだと思う)女子生徒を

寮から脱走させたのが私、らしい

いやいや、誰がそんなこと

 

校舎内で喫煙しているらしい、私

生まれて42年、一度も煙草を咥えたことすらありません

 

噂が噂を連れてきて

今度は私の身なりにも火種がくっついてきた

8センチのヒールは生徒を傷つける

タイトスカートは男子生徒を誘惑している

淡い暖色は学校という場にそぐわない

男子生徒との距離が近い

肌の艶を押さえてほしい

色香を学校に持ち込んでいる

 

笑っちゃうな

本当に

溜め息をつかれ、持ち場に戻れば一挙手一投足を

なめ回すように監視され

保護者からの電話で話し込めば

話を聞きすぎると言われた

あなただから話せる、と言われて

途中で電話を切れるような冷酷さは私にはない

授業にいきたくない、教室に居場所がない

そう言って泣きながら私の姿を求めて

やってくる女子生徒たちに

ハンカチを片手に席を立ち上がるたびに

ひどく睨まれた

 

仕事はきっちり全て仕上げた

期日から遅れたこともない

報告連絡も全て行っていた

 

差しのべられた手を取るだけではなく

彼ら彼女らの笑顔と前向きさは

私にも生きる源になる、底から沸き上がる力を日々くれた

 

それを伝えても

同じ目線に立つことは間違っている

高いところから厳しく、そう言われ続けた

噂が信じられ、私のことは理解されなかった

自分が居ない場所で自分の話をされ

欠席裁判の日々だった

 

少しずつバランスが崩れて

7月下旬、はじめて心療内科に行った

適応障害と診断が下り

たくさんの薬が出た

 

眠れるようになる薬がどれだけ増えても

眠れるようにはならなかったし

精神が安定する薬を飲んでも

喉の詰まりと押し寄せる不安と恐怖は消えなかった

 

2度、復帰は延長された

生徒たちからは

ゆっくりかえってきてな

待ってるから

とメッセージが届いた

送られてくる写真を見るのもまた、癒しだった

 

2か月休み、9月末に復帰した

途中、喫茶店で面会した管理職からは

復帰の日は誰より早く学校に出てみんなを迎えるくらいがちょうどいいなと言われた

 

復帰の日の朝、私の車を見て

走ってきてくれた野球部のマルコメたち

抱き締めてくれた

待ってたで、お帰り

もう、これからずっとおるんやろ

いろんな話あんねん

いっぱいはなそな

ゆっくりでええやん

 

どれだけ救われただろうか

生徒たちと昼休みを一緒に過ごした購買は閉鎖され

休み時間には

近所のパン屋さんがパンを売りに来るスタイルになり

私の居場所はどこにもなかった

私の机は当日の朝まで荷物置きだった

 

復帰の日の私の様子と病名、受けた印象

(以前とは様子が違う、以前のように話せない、と記述)

特定社労士とのやり取りが克明に書かれたファイルは

PCの中、誰にでも見られる場所に投げ入れてあった

 

それを見つけたときの

腸が煮えくり返るほどの怒りは

生まれてはじめてだった

 

それからひと月はあっという間だった

HALLOWEENの日に退職するね

大好きな生徒たちにそう伝えた

嘘をつきたくなかったから

 

生徒たちは怒り狂った

廊下までやって来て

上に鎮座する『長』がつく人たちに向かって

icoちゃん追い詰めたのお前らや

なんでicoちゃん辞めなあかんねん返してくれや

いっちゃん大事なもんわかってない腐れ学校や

 

そう、言い放った

 

HALLOWEENの日は

本当に本当に幸せだった

終わってほしくなかった

朝、迎えられ

帰り道真っ暗になって

見送ってくれた

階段の上まで埋まるくらい写真を撮るのを待ってくれる生徒たちでいっぱいになって

掃除時間も掃除なしがその日だけ許された

 

大好きやで

と言われ

大好きだよ

と目を見て伝えた

 

弁護士さんにも相談していたから

代理人の方と一緒に

退職後にも一度、学校に行った

 

私は

この学校から敵としか見られていないな、と

肌で感じた

 

話が終わって帰るとき

ちょうど休み時間だった校舎から

たくさんの生徒たちが身を乗り出して手を振ってくれた

 

代理人さんが

その光景を見て泣いていた

 

生徒さんたちは

icoさんのあたたかさを大人になっても

ずっと忘れませんよ、と

言ってくださった

 

私も、忘れないですと

笑って言った

 

悔しさも怒りも、本当はねじ伏せてしまい込んだだけ

人生は学び

ここから学ばなければ

 

明日から新しい仕事が始まる

不安だけど

笑顔でいればきっと大丈夫だと思う

 

ケセラセラ

忘れないよ

ありがとう

大好きだよ

本当に